はじめに
人は誰かを好きになると、自分の都合のいいように思い出を変換することってよくありますよね。
妄想と現実の間(はざま)で自分の感情を錯覚し、理想通りに夢を描いてみたり。
リアルなのかフィクションなのか…あり得ないことだけどこうなったらいいな…
誰しも何かに希望を持っているもの。
そんな気持ちを文章にしてみたいと思い小説を書いてみようと思い立ったわけです。
『想いの強さは現実をも動かす』そんな気持ちで “いつか叶う” のだと、まだ経験の浅い子供だった私はただ一途に何かを追い求めて来たような気がします。
夢のような現実も、現実を理想に近づけるのも信じ続ける所にあるのかもしれません。
「いつか叶うといいな…」子供の頃に夢見た理想の自分を、物語の中でだけは自由に、自由自在に願うままに生きている
そしてもう一つ。恋愛でも学校や会社のような社会生活でも、家庭でもそうですが、自分が見ている景色や感情と相手や周りから見えている自分は違うように、見る角度・視点が変われば違う世界になるということ。
「いつか伝えたい…」と思っていることも相手が感じていることは、求めていることは同じではなく、子供の頃に感じていたことが大人になった今も同じように続くわけではない。
ずっと変わらずに信じられること、変わらない自分でいることはこんなにも難しいものなのだと大人になった今はそう思っています。
そんな理想を今でも持ち続けていたい自分と現実に生きていく厳しさを実感しながら、理想を小説にしてみました。小説と呼べるものではないかもしれないが、少しでも興味を持ってお読み頂けると嬉しいです。
運命を感じた出来事

はじめて、誰かを見て気になると思えたことは今までなかった。この人に出逢うまでは。。
それを運命と呼ぶのか、ソウルメイトなのか、、そんなことはわからない。
でも気になる。いつも心の何処かにいる人…なのは確かだ。
人生にとってそんな人に出逢えたことは、やはり稀有なことで一生に一度も巡り会えるかわからない好機なのだと思う。いつになっても鮮明に思い出せるその出来事は、色のない自分の人生に光が指したようにそんな明るくカラフルなものに感じさせた。
本当に何気なくその時は訪れた。日常のいち場面の本当に些細な出来事だったので、その前後の記憶はあまりない。なのに、その瞬間だけは何度も今でも鮮明に思い出せる。
その日も私は何の迷いもなく、あたり前のようにリモコンを手にしテレビをつけた。日常的な行動だったので、なぜテレビを観ようと思ったのか考えることもない。
そのくらい自然にその行動をとっていた私は、暗い画面に映し出されたその映像に釘付けになった。
そこには、何となく名前を聞いたことがあるような…くらいの知識しかないある歌手のミュージックビデオが流れていた。どこかで聴いたことがあるようなその曲は、自分の心をそこに留めるには大いに役立った。
ミュージックビデオなんてどれも同じだろう。くらいの知識しかない私は、その作り込まれた映像に衝撃を受けた。ひとつの物語を見るようなそれは、この音楽の完成度を高めていた。
完璧なほど魅せられたその中に、私が最大に心惹かれたことがある。
その歌手を見た瞬間によく言う雷が落ちたような…電気が走るような…そんな感覚に襲われた。
本当にこんな事があるのかと思うことが私の中にも起こっていた。時間にしてほんの数秒の出来事だっただろう。
『この人は、なんでこんなに苦しそうに歌っているんだろう…』
私はそのことが気になって目が離せなくなっていた。当時は好きというほどの思いではなかったかもしれない。
少し思い出してみると、たしか…デビューしたばかりでテレビに出ていた映像も観たことがある。
それは後になって気づいたことだが、こうして歌っている所を見たのはこの時が初めてだった。
その当時はあまり聞かない事務所からデビューをして、話題にもなっていたであろうその人は、何故こんなに苦しそうなんだろう…と私の心の中にはそんな蟠りが消えずにいた。
この人にとっては念願の歌手デビューなのだろうし、地位も名声も手にしたはず。特集で取り上げられるくらい曲も話題になっているのであろう。欲しいものは全て手に入れているように世間からは見えているであろうし何不自由なく、所謂成功者と呼ばれる類の人のはず…それなのに…
これだけ華々しく着飾って周りの沢山の人に取り囲まれ、私とは正反対の人生を生きているその人は、その頃の私には誰よりも眩しく見えた。
そんな全ての理想を叶えたような、私の理想を実現した人を目の当たりにした日でもあった。
*この物語はフィクションです。